「易経」とは

『易経』は、中国古典の最高峰である※四書五経(儒教の経典)の1つであり、紀元前1100年ごろから、天下国家を治める道を解き明かし、あらゆる真理が含まれた「帝王学の書」として伝えられてきました。易経は、六十四の卦(け)の意味を説く「卦辞」(占った結果が表れた卦を説明するもの)と、各卦を構成する六つの爻(こう)の意味を説く「爻辞」(六つの爻を説明するもの)の二編と卦辞と爻辞の解説となる「十翼」(じゅうよく)の十編の十二編からなりたっています。また、「易経」の著者は、厳密には不明とされていますが、伏羲(ふっき)が陰陽を唱え、周文王が本文を作り、孔子が解説書である十翼を作ったという説があります。しかし実際にはさまざまな説があり、事実は不明です。

変化の書である「易経」

『易経』は英語訳では『Book of Changes』と書きます。これを直訳すると「変化の書」。易経は「変化」について説かれた書物です。古代の人々は現代人と比べて、広大な宇宙のつながりを実感していました。そのため宇宙や森羅万象の陰陽の変化について説いていると言われています。

易の起源

易の原点を作ったとされる伏羲(ふっき)は、古代中国の神話に登場する伝説の皇帝で、漁業や牧畜を人類に教えた神のような存在でした。古代中国の王は統治者であるとともに神官も兼ねていたため、戦争や還都といった国を揺るがす大事から、王族の婚姻や祭祀、収穫を左右する天候の変化や狩猟などの吉凶を占うために、卜占(ぼくせん)という風習を持っていました。卜占は「すべての事象は必然である」という考えのもと、偶然に意味を見出して判断していくものです。その卜占の道具として、亀の甲羅などが使われ、亀の甲を焼いてできるヒビ割れの形で吉凶が占われてきました。

シンクロニシティや二進法との関係

易は飛鳥時代に日本に伝わり、奈良時代に研究され平安時代に貴族階級に広まりました。その後、西洋には中国に宣教師として渡ったドイツ人(リヒャルト・ウィルヘルム)が1923年に易経をドイツ語に翻訳したことで伝わっていきます。易は心理学者のユングにも影響を与え、ユングの唱える「シンクロニシティ(共時性)」が易の思想と重なることから、集合的無意識によってもたらされる答えが、人間と世界には論理的には説明できないつながりがあると考え、易を研究するようになります。また、ドイツの数学者ライプニッツは易経の原理が「二進法」であることに驚いたと言われています。

「易の三義」

易には「易簡」「変易」「不易」という3つの意味があります。

「易簡」とは

「易簡」は「簡易」ともいいます。この世界の自然も宇宙も人生も必ず変化をし、そこには一定不変の法則があります。この変化の法則性を理解すれば、私たちの身の周りのあらゆる事象も理解しやすくスムーズに運ぶということをさします。

「変易」とは

森羅万象、この世のすべてのものは常に変化をしつづけていて、私たち人間も※生々流転し、常に変化して止まない時の中で生きているということを意味しています。

「不易」とは

変化には必ず一定の不変の法則性があり、春夏秋冬も春の次に夏が来て、夏の次に秋が来ます。その順序は変わることなく変化して循環していきます。そのような変化の原理原則を「不易」と言います。その変化はテクノロジーの進化などで生活習慣が大きく変わったとしても、古来から繰り返されてきた法則性は変わることはないということです。

物事の原理原則

あらゆる物事はこの原理原則に従って変化しています。今抱えている問題も、うまくいかない日々があったとしても、その根底には春夏秋冬の循環が流れています。仕事も家庭も人生もそれぞれの季節があり、もし今、とても辛い日々の中で、そこから抜け出したいと焦ってしまっても、その凍った大地に種ををまいても、冬の時期に実はできません。大地の準備が整った春に種をまけるように、土壌づくりに励んで時を待つことが大事なのです。

陰と陽

易では全てのものが陰と陽で成り立っていると考えました。例えば、男性は陽で女性は陰。昼は陽で夜は陰。太陽は陽で月は陰。陽は積極的で陰は消極的というように、2つのものは相反する関係にありますが、それらは相対的であり、関わり合いながら常に変化をしています。このように循環していく事象の根源を「太極」と呼んでいます。

太極とは

太極とは根源的な宇宙のパワー、万象の源です。陰でもなく陽でもない、混沌とした状態をあらわしています。この太極から「陰」と「陽」が発生すると言われており、この太極をあらゆるものに当てはめて考えていきます。例として「自然」の場合であれば、陽が天であり、陰が地になります。

<陰>
地、夜、悪、邪、止、弱、裏、柔、小、月、寒、冬、女、子 、−

<陽>
天、昼、善、正、動、強、表、剛、大、日、暑、夏、男、親、+

行動の指針を得る

私たちの人生は決断の連続です。人生の転機でどう選択し行動するかによって、その先の未来は変わっていきます。
先行きが不透明な人生は、不安を感じてしまうことも多いものですが、行動指針を手にしていればその不安は減っていきます。

易は単なる吉凶占いではありません。吉とされる卦の全ての爻が吉というわけではなく、凶の卦の中にも吉の卦はあり、陰と陽は常に変化をしているため、凶から吉に転じることもよくあると言われています。易の結果だけで一喜一憂せず、そこから得たメッセージを受け止め、自分ならどうするのかということを考えながら、自分の人生に活かしていきましょう。

「四書五経」
中国の儒教の基礎的書物のこと。

「四書』とは・・『論語』『大学』『孟子』『中庸』の四つの書物。
「五経」とは・・・『易経』『書経』『詩経』『礼記』『春秋』の五経。

「生々流転」しょうじょうるてん
万物が限りなく生まれ変わり死に変わって、いつまでも変化しつづけること。せいせいるてん。

(引用〈小学館 デジタル大辞泉〉より)